制度の迷宮を解読:ドローン操縦士資格の取得体験記

昨年末に「空を飛びたい」と思い立ち、ドローンを飛ばすために二等無人航空機操縦士のライセンスに取り組みましたが、やっと技能証明申請まで漕ぎ着けました

By Toshiyuki Yoshida

技能証明申請者番号の取得

これからドローンを飛ばすために国家資格である二等無人航空機操縦士を取得する場合、国土交通省の 「ドローン情報基盤システム2.01技能証明申請者番号の発行を行 う必要があります。ドローンスクールに入学を申し込むと、この番号を取得するよう に指示されるはずです。

この技能証明申請者番号の発行には本人確認と登録講習機関が必要です。

本人確認にはマイナンバーカードを使用しますが、マイナンバーカードに登録した 住所などが自動反映され変更できないので注意しましょう。

登録講習機関とはドローンスクールのことです。ドローンスクールには"T0XXX001"など の事務所コードがアサインされていて、ドローンスクールから提示されるはずなので必ず確認しましょう。

ドローンスクールに通う

ドローンを飛ばすために二等無人航空機操縦士を取るには、①学科試験、②身体検査、 ③実技試験をクリアする必要があります。

このうち、実技試験について自動車と同様に教習所に通って実技訓練を受けて、 教習所の実技試験にパスすることで二等無人航空機操縦士の実技試験を免除できます。 教習所に当たるものが、ドローンスクールです。

実技試験で求められる、目視で位置を把握しながらスクエア飛行や八の字飛行、 不安定な ATTI モードでの飛行とがどれだけ実務的に有効なのか疑問もあります。 しかし、資格取得には実技試験でこれらをこなす必要があり、 そのためには練習が必要なのも事実です。 資格がない状態での練習場所も確保しづらいので、 20〜30 万円の費用は必要ですがドローンスクールで講習を受けるのが合理的 だと思います。

今回は二等無人航空機操縦士に追加して目視外飛行と夜間飛行の限定解除を付けました。

練習時間は大したことがなく、詰めて 3 週間くらいで完了しました。 しかし、実技試験の枠がなかなか取れず、練習を修了してから実技試験を受けるまで 1 ヶ月以上必要でした。結果、目視外で一度失敗して、補講を受けて再試験になり 基本、目視外、夜間の 3 つの試験で 2 ヶ月くらい必要でした。

私が通ったドローンスクールはショッピングモール内にあり、天井の制約で せいぜい 1.5〜2m の高さでしか練習できませんでした。 実技試験では 3.5m の高さと規定されており、 試験の仕様を満たし試験するためにドローンスクールは別会場を 押さえる必要がありました。その結果、試験枠が限定され、 実技試験をスケジュールで苦労しました。

スクールを選ぶ時は、こういったファシリティーも確認したほうがよいですね。

学科試験と身体検査

学科試験と身体検査は、なぜか一般財団法人日本海事協会が無人飛行操縦士試験を 運営していて、これらの試験も海事協会の「試験申込システム」を使います。

学科試験の手数料は 8,800 円です。 試験申込システムで申し込むと、結局プロメトリックで試験を受けることになります。 試験は会場の PC で予約した時間に受験するスタイルです。 試験に合格するとプロメトリックから海事協会の試験申請申込システムに連携されます。

身体検査は運転免許を持っていれば、海事協会の試験申込システムに 運転免許をアップロードすることで実際の身体測定を受 けずに完了させることができます。この場合、手数料は 5,200 円です。 会場で実際に身体検査を受検する場合は、19,900 円の手数料が必要です。

すべての試験が終わったら

スクールの実技試験が終わったら、スクールから「無人航空機講習修了証明」 というものがそれぞれの実技試験に対して発行されます。基本、目視外、夜間 と受けていれば 3 枚発行されます。

最初はこれをそのまま DIPS2.0 にアップロードして申請すると思っていたので、 「あれ?そう言えば学科と身体検査ってどうなったんだ?」と混乱してしまいまし た。

結論からいうと、すべて一度海事協会の試験申込システムを経由する必要がありました。

  1. 学科試験と身体検査が修了した時点で海事協会の試験申込システム上に「試験合格証明書発行申込み」という試験が現れる。学科、身体検査、ドローンスクールの実技試験がすべて終わったらこれを申し込む。
  2. 試験申込システムでは申込があると 7 日ほどですべての証明書を発行してくれる。

試験修了後に別途合格証明書発行の申請が必要などトリッキーなプロセスで、 最初全く理解できませんでした。

海事協会の試験申込システムとドローンスクールは技能証明申請者番号で連携していて、 「試験合格証明書発行申込み」を行うと発行される「試験合格証明書」にはドローン スクールの講習修了証明番号も連携して掲載されています。

この試験合格証明書発行により、DIPS2.0 にもすべての証明番号が連携されます。 この状態で初めて DIPS2.0 に証明書をアップロードできるようなります。

DIPS2.0での技能証明書交付手続き

以上の手続きがすべて終わり、DIPS2.0 に入って「技能証明書の新規交付」を 選択すると海事協会のシステムから各種証明番号がすべて連携されてプリセットされ ています。

証明番号を確認しながら、海事協会の試験申込システムからダウンロードした「技能 証明合格証明書」、ドローンスクールから発行された講習修了証明書を対応させて アップロードして申請します。

私は、今ここです。

二等無人航空機操縦士のライセンスの問題

二等無人航空機操縦士の技能証明は、2022 年 12 月 5 日より施行 されたばかりの国家資格です。受けてみていろいろ問題があると感じました。

資格取得のプロセスやシステムの酷さ

上記に資格取得までのプロセスをまとめましたが、 どのように思われますか?

私には、わざと難解にしたとしか思えない手続きでした。

特に海事協会が入ることで、国土交通省のシステムと海事協会のシステム、 プロメトリックのシステムを行き来する必要あります。 なぜ無人飛行操縦士の資格試験を海事協会が担当しているのか合理的な理由が ユーザーからは見当も付かないので、個々の申請の意味が分かりづらく混乱しました。

システムのインターフェイスもめちゃくちゃで分かりにくさに拍車をかけています。 国土交通省の DIPS2.0 も酷いシステムですが、海事協会の試験申請システムは本当に 酷いものです。

制度が発足してまだ 2 年足らずで過渡期であるため、手続きも頻繁に変わっています。 以前はドローンスクールの証明書は海事協会のシステムにアップロードしていたのが、 現在不要になったりして改善はしているのでしょうが、 ネット検索して手続きを調べると古い情報が残っていて更に混乱しました。

現状のドローン事情との齟齬

今回ライセンス取得に取り組んでみて、ドローンの現状との齟齬を 2 点感じました。

まず「目視外」の限定解除が必要なことです。

今売られているドローンの多くは、モニターやゴーグルを通じた FPV 飛行、 GPS ウェイポイントによる自動飛行、障害物自動回避などの機能を持っています。 最大伝送距離も 10Km 程度あり、電波干渉や障害物があっても数 Km 程度は問題なく飛行 できます。

目視飛行が可能なのは 500m 程度ですから、ちょっと飛ばすと 「目視飛行は無理よね」という距離になってしまいます。 モニターを一瞬見ただけで「目視外」となるので、 目視飛行では安全な飛行に有効なカメラやセンサー、GPS からの情報を確認することも できませんし、便利な自動飛行なども使えません。

つまり、現代のドローンを運航しようとするとモニターを見て操作する時間がほぼ必要 ので「目視外」の限定解除がほぼ必須だと感じます。この事情を知らないで、限定 解除せず、ライセンス取得後に「しまった」ということが多いようです。

つぎに「機体認証」の話です。

ドローンは、二等無人航空機操縦士の資格と認証機体がそろって はじめて自由に飛ばすことが可能となります。 いずれかが欠けていると、「飛行の許可・承認申請」を行う必要があります。

ところが、現状第二種型式認証を日本で受けている機体は、下表のものだけです。

型式メーカー認証取得日推定価格
6150TC型イームズロボティクス株式会社2024年4月5日不明
Airpeak S1(ARS-S1)ソニーグループ株式会社2023年12月22日110万円
EGL49J-R1型株式会社DroneWorkSystem2024年3月29日不明
エアロボウイング(AS-VT01K)エアロセンス株式会社2024年6月5日550万円
D-HOPE Ⅰ-J01型株式会社センチュリー2024年3月29日30万円/日(レンタル)
EGL77J-R1型ドローンWORKシステム申請中(2024年9月27日)不明
FAZER R型ヤマハ発動機申請中(2024年10月1日)1千342万円

推定価格を見ても分かりますが、どれも業務用で個人のホビーを想定したものはありません。 そのため小売りをしていないようなので、入手性、価格の観点から個人のホビー目的 には全く向いていません。

一般的にホビーで人気があるのは DJI などの中国のメーカーです。 高性能で価格もリーズナブルですから、映像のプロなどでも多く使われています。 しかし、これらの機種は認定を受けていません。 世界的にメージャーな機体なので、日本の独自認証などの手間を 日本マーケットのためだけにかけるとは思えません。

つまり、個人の場合、国家資格を取っても認証機体の入手が事実上不可能なので 結果として飛行許可・承認申請が必要となります。

申請には無人航空機仕様も届け出る必要があります。 このため自分でドローンの上面、側面、前面の写真 とユーザーマニュアルを DIPS2.0 に貼付する必要があります。 国土交通省の資料 によると 2024 年 10 月時点でのライセンス交付数は 17,252 件です。その大半の方が 飛行許可・承認申請を行うと思います。 少なくとも数万件の許可・承認申請が提出されており、 そこには同じ DJI のユーザーマニュアルが貼付しているはずです。

それ、ほんとに読んで確認して承認しているのでしょうか。

なんて間抜けなシステムなんだろうと思います。

毎回申請は手間なので、多くの人は「日本全国・一年間」などの包括申請を行うことになりますが、 それでも 2 万件近い申請になっているはずです。

これは明らかに仕組みや手続きのバグです。

ドローン体験をシミュレーターで先取り

いずれにしろ、まだドローンを飛ばせるまでには手続きに時間がかかりそうなので、 手っ取り早く飛ばす体験をするために、 TRYP FPVというドローンのシミュレーターを購入しました。

Macbook Pro に DJI 送信機 3 を繋いで、遊んでいます。

資格取得ではスポーツモードの操縦はしないので、 全くうまく操縦できていませんが 3 日ほどやりこんで やっとなんとか思った方向には飛ばせるようになってきました。

ドローンも壊れないし、これで十分じゃないかと思い始めてます。

Footnotes

  1. 通称、「DIPS 2.0」