今週の気になった記事や出来事は次の3つです。

  • 『劇場総集編 ぼっち・ざ・ろっく Re:Re:』鑑賞
  • AWSの新CEO Matt Garman のAIと開発者に関する発言
  • 一連の誹謗・中傷事件について

『劇場総集編 ぼっち・ざ・ろっく Re:Re:』鑑賞からの考察

今週は『劇場総集編 ぼっち・ざ・ろっくRe:Re:』を見てきました。 平日だったので観客はまばらでしたが、 「公開4日で興収2.5億円突破」 という記事もあるのでヒットしているのでしょう。

「ギターヒーロー不在の時代」とも言われますが、『ぼっち・ざ・ろっく』ではギター ヒーローとも言えるYoutubeで10万人近い登録者を持つ凄腕の女子高生ギタリストの 主人公 後藤ひとりが、高校生活を通じてバンド活動で成長してく様が描かれています。

よい機会なので現代の「ギターヒーロー」について考察していました。

ギターヒーロー不在の時代

かつて、ギターヒーローとは1970〜80年代のジミー・ペイジやエディ・ヴァン・ヘイレ ンのように、卓越した技術や個性的な演奏スタイルを持ち、ギターソロで人々を魅了す るギタリストを指していました。しかし、1990年代後半以降、こうしたギタリストは少 なくなっています。

その理由としては、以下が挙げられます:

  • 機材の進化が停滞し、ギターが音楽の革新の中心でなくなった。
  • 新しい奏法が出尽くし、ギタリスト間での差別化が難しくなった。
  • 音楽ジャンルの多様化により、バンドでのギターの役割が相対的に小さくなった。
  • ショーの形態が変わり(コンサートからフェス)、リードギターの見せ場が減少した。

「ギターヒーロー不在の時代」とも言われる今、後藤ひかりはどのような「ギターヒーロー」として描かれるのでしょうか?

後藤ひかりのギタリスト像

「ぼっち・ざ・ろっく」の音楽監修を担当しているinstantさんは、1990年代のテクニカ ルなメタル系ギタリストを意識しており、後藤ひとりのギタリスト像もその影響を受けていると思います。2010年前後に話題となったメタル姫 のようなイメージに近いと言えるでしょう。彼女が使用するレス・ポールのギターも、その音楽性を反映しています。かつての王道ギターヒーローに近いと言えるでしょう。

アニメ版では、ギタリストの三井律郎氏がアレンジと演奏を担当しています。 『ギターマガジン 2023年8月号』のインタビューによれば、下北系ギターを意識しているとのことです。 下北系ギターはギターソロがほとんどなくリフやコードプレイが中心の時代を経て、 空間系エフェクトやファズを活用した多彩な音色のギターの流行という変遷を経ているそうで、 結束バンドのギターもその延長線上で想像されているようです。

特にアニメではバンドの中で悩む主人公の姿が描かれています。対人関係やリアルに人前で 演奏するハードルという面はもちろんあると思いますが、音楽的なギャップというのも 大きいのではないかと想像します。超絶テクニカルなギターソロを弾けても、 バンドのアンサンブルの中でリフ、バッキングを中心にテクニカルなオブリガートを 駆使しバンドとしての音を埋めて行くことは意外に難しいものです。

アニメでは、ストーリーが進行するに従いエフェクターが増え、学園祭シーンではオートワウやディレイなどの空間系エフェクトが活用され、楽曲の中で多彩な音色を使いこなすようになってきます。。フレージングも、ペンタトニックを中心にしつつ他のスケール音を組み合わせ、異なるジャンルのニュアンスを取り入れたものとなっています。

ギターを主軸としつつ現代的なアレンジを成立されている結束バンドの音楽は、現代のロックバンドのリアルな手本となるもので、かつ現代のギターヒーローの可能性を見せてくれます。コピーしても、派手なリードはないものの、テクニカルなバッキングが多く、演奏していて楽しい曲が多いことから、後藤ひとりも立派なギターヒーローといえるでしょう。

「フラッシュバッカー」や「星座になれたら」はコピーしようとすると結構難度が高いけれども、弾けると楽しいし学園祭などでは受けるのではないかと思います。

コーディング作業は不要になるか?

8月21日のBusiness Insiderの記事で AWSの新しいCEO Matt Garmanが以下のように語ったと報じられました。

If you go forward 24 months from now, or some amount of time — I can’t exactly predict where it is — it’s possible that most developers are not coding, Coding is just kind of like the language that we talk to computers. It’s not necessarily the skill in and of itself. The skill in and of itself is like, how do I innovate? How do I go build something that’s interesting for my end users to use?

今から24か月後、またはある一定の期間を経た時点で、ほとんどの開発者がコーディ ングをしていない可能性があります。コーディングは、ただコンピュータとやり取り するための言語にすぎません。それ自体が必ずしもスキルというわけではありませ ん。スキルそのものは、「どうやって革新を起こすか」、「エンドユーザーが使って 面白いものをどう作るか」といったことです。

Business Insider- In a leaked recording, Amazon cloud chief tells employees that most developers could stop coding soon as AI takes over

イノベーション志向の会社のCEOらしい発言ですが、 経営工学を学びインターンでアマゾンに入社しAWSの技術チームを率いた後に 営業とマーケティングを経験していても、事業会社でのIT経験がないCEOらしい狭量な発言です。

人間が作成したアルゴリズムを使わずニューラルネットでシステムを作成すると言うSoftware2.0は、最先端でも理解しているエンジニアもほとんどいないため実案件で使われるようになるには少し時間が掛かるでしょう。

以前の記事で書いたよう、当面はCopliotのようなAIの補完ツール、Anthropic社の[Cloude3 Sonnet Artifacts]のようなAIと協働して開発を進めるモデルを経てAIにアルゴリズムを開発させる形態へと徐々に移行していくでしょう。

この文脈でAIが活用されている間は最終的な成果物の評価はエンジニアに委ねられるため、 これまで以上に高度なコーディングスキルが求められるでしょう。 むしろ独自に開発する機会が減る分、エンジニアが実践的なコーディングスキルを 養うことが難しくなるかもしれません。

それでも、探求心のあるエンジニアは仕事以外でもコーディングを続け、スキルを高めていけるでしょう。一方で、エンジニアという職業についているだけの多くの人はこれまで通り能力を発揮できないでしょう。

一連の誹謗中傷事件について

ここ最近、お笑い芸人フワちゃんによる、X(旧ツイッター)上でのやす子への不適切発言や 重定知佳選手の事件、SNSでの五輪アスリートへの攻撃など誹謗中傷について事件が目立った ように思います。

また、これらの事件に対する報道や世間の味方も気になりました。

人間の本性

少し前に読んだ橘玲氏の『世界はなぜ地獄になるのか』が、 こういった事象に関する人間の本性を見事に言い当てています。

要約すると、次のようなものです。

  • 旧石器時代の数百万年間、人類は150人程度共同体の中で生きるよう適応してきた。
  • 共同体の中での競争はステイタスゲームとして行われ、ステイタスが下がる=共同体からの排除を意味し、正に死活問題であった。
  • ステイタスを上げるには成功、支配、美徳と3つの戦略があるが、前者2つは支配者や金持ちにしか実現が難しく、美徳は「道徳律の実践」により得られるものなので、本来はいずれもリスクとコストを伴うものであった。
  • ただし「美徳」には道徳律実践以外に「不道徳者を暴き出し"正義"を振りかざして叩く」ことで自身の道徳的地位を相対的に引き上げて美徳を固辞する戦略が存在する。

こうして、成功ゲームや支配ゲームをうまくプレイできない落ちこぼれが、 「被害者」を見つけては正義の元に他者を糾弾する美徳ゲームになだれ込むことになります。 中世の異端審問を始め、フランス革命期の恐怖政治、南北線戦争後のレコンストラクション、 マッカーシズムなど、歴史を振り返っても美徳ゲームに熱狂していた大衆の姿をすぐに見つける ことができます。

社会的、経済的な地位に関係なく誰でも出来る美徳ゲームは、インターネット、SNSを通じて、 更に匿名でローリスク、ローコストで行うことが可能となりました。

誹謗・中傷やキャンセル・カルチャーは、こういった人類の社会的・生物学的な背景から 見ると大半の人類の本性であり、これからも多くの人がこの「正義というエンターテイメント」 を存分に楽しんでいくでしょう。

キャンセル・カルチャー時代を生き抜く

キャンセル・カルチャーや誹謗中傷が人類の本性だとすると、あなたがネットで出会う大半の相手は 落ちこぼれブレーキが外れた正義エンターテイメントに勤しんでいる輩です。

こういった状況から身を守るには、次の3つの戦略しかありません。

  • 「関わらない」 つまり、こういった輩が多数存在し自身でコミュニケーションをコントロールできない中央集権的なSNSプラットフォームから撤退する。
  • 「正義である」自身への抑制のためにも、匿名でなく実名でフェアネスな立場で発言していることを常に明確にする。
  • 「潜伏する」自身も人間なのでどこかで正義エンターテイメントに身を任せ問題発言をしてしまうことは避けられないでしょう。そのため、徹底的に潜み匿名に徹しましょう。発信者情報開示請求されても身バレしない対処をちゃんとやっておきましょう。

私自身は、すべてのSNSを一旦削除し、実名でこのサイトを運営し、個人でVPNや暗号化を徹底しています。