ウェブデザイン技能検定は必要か? - 技術変化の時代の資格価値

最近気になってWEBデザイン関連の認定資格を調べていたら、 「ウェブデザイン技能検定」という国家検定があるのに気付きました。折角なので、深掘りして調べてみました。

By Toshiyuki Yoshida

少しだけ通った VY 訓練校では、Webクリエイター能力認定試験が取得できそうことを言っていました。内容見ると、メモ帳で HTML を書かすようなアホな試験でした。 何かで有利に働くこともなさそうです。受験者数は多そうですが、一体何を目指しているんでしょうか。

気になって WEB デザイン関連の認定資格を調べていたら、「ウェブデザイン技能検定」という国家検定があるのに気付きました。

資格試験の現状と基本構造

ウェブデザイン技能検定は、厚生労働省が認定する国家検定制度として 2008 年に創設されています。 運営は厚生労働大臣指定試験機関である特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が行っています。 この検定は職業能力開発促進法に基づく技能検定の 1 つであり、Web デザインにおけ る実務的な技能を公的に証明するものです。1 級から 3 級までのレベル別に実施さ れています。

ウェブデザイン技能検定 1 級では、HTML5、CSS3、JavaScript 等のコーディング技術に加え、情報設計、ユーザビリティ、アクセシビリティなどの幅広い知識が問われます。Web サイト全体の設計や企画、ディレクション能力も評価対象です。出題形式は選択問題、記述問題、実技課題があります。

特定非営利活動法人インターネットスキル認定普及協会が公開している取得者数を確認すると、過去五年間の受験者数と合格者数は次のとおりです。

年度受験者数合格者数合格率
2019年度51人12人23.5%
2020年度46人8人17.4%
2021年度51人9人17.6%
2022年度61人3人4.9%
2023年度63人9人14.3%

1 級になるとなかなかの難関です。

技術的乖離 - 古い技術標準

技能検定の内容や対策本などから検定で求められている技術やスキルを確認してみました。

内容を見る限り、最新の技術スタックに追いついておらず、一昔前の技術標準にとどまっているようです。

例えば JavaScript については、ES6(ECMAScript 2015)以降の最新機能への対応が限定的であり、 主に ES5 レベルの機能に基づいていると推測されます。 出題傾向を見る限り、アロー関数、Promise、async/await、モジュールシステムなど、現代の JavaScript 開発において標準となっている多くの機能が試験範囲外となっているのかなと思います。 公式資料では明確なバージョン指定はありませんが、基本的な DOM 操作やコールバックパターンが中心となっており、2015 年以降に標準化された現代的な実装手法との間に大きなギャップが生じています。

現在のウェブ開発現場では React、Vue、Angular などのフレームワークが標準的に使用されていますが、技能検定ではこれらモダンフレームワークについては全く扱っていないようです。また、現代のウェブ開発において npm、Webpack、Vite 等のビルドツール、Git などのバージョン管理システム、CI パイプラインなどは標準的な環境では必須ですが、技能検定にはほとんど言及がなく、従来型の静的なファイル編集アプローチに留まっている可能性があります。

WEB デザイナーがフロントエンドエンジニアと呼ばれる現状において、モダンフレームワークやモダンなツールチェーンを知らず従来型の JavaScript と jQuery の知識のみでは就職市場での競争力の足しになりそうな気がしません。コンポーネント指向開発の概念や状態管理といった現代的なアプローチが試験に含まれていないことも、実務との乖離を深めているように思います。 モダンな開発ワークフローへの理解がないまま現場に出てしまっては、実務での大きな壁となりそうです。

イメージ的は 2000 年代によく見かけた HTML/CSS/Javascript が書けて PHP(今どき PHP)もちょっと書ける「Web デザイナー」でしょうか。

グローバル標準との比較

他の国の同じような認定制度と比較してみました。

米国では、ウェブデザイン技能検定と似たような認定制度は以下のようなものでしょう。

  • W3Schools Certified Web Developer/Designer - HTML, CSS, JavaScript など基本的なウェブ技術の知識を証明する国際的なオンライン認定
  • freeCodeCamp Certifications - 無料だが業界で認知度が高まっているウェブ開発認定プログラム
  • CIW (Certified Internet Web Professional) - ウェブデザインおよび開発に関する体系的な国際認定制度

W3Schools と CIW は比較的伝統的なウェブ技術に焦点を当てており、ウェブデザイ ン技能検定と近いかもしれません。freeCodeCamp は現代的な技術スタックをカバー しているようです。

いずれも米国市場ではデザイナーのキャリアとしては、ほとんど評価されず意味がありません。 これらの認定に時間をかけるなら AWS や Google などの認定資格のほうが市場価値はあり、 給与へ直接インパクトがあります。

海外の採用市場では、特定のフレームワーク(React、Angular、Vue.js) の実践的経験や、AWS/Google Cloud 等のクラウドサービスの知識が重視されます。 国際的な企業の採用基準では、現場で使われているツールや技術への適応能力が最優先される傾 向にあります。 実務から乖離した資格よりも、実務で実践したポートフォリオや有力なプラットフォームの知識が評価されます。

特に AWS/Google/Azure の認定などは技術の変化に伴い、認定内容自体も常に更新されており、認定も 2 年程度の有効期間があり、再認定が必要なため、継続的に最新の技術にキャッチアップし学習が必要です。だからこそ、評価されているのでしょう。

まとめ

ウェブデザイン技能検定は学科と実技合わせると 32,000 円もの費用が検定に必要です。

検定の難度と、業界で求められるスキルの証明にならなさそうなことを考えると、 取得する価値はあまりなさそうです。