戦争責任について
中島聡氏のメールマガジンに「戦争責任にケジメをつけて前に進む必要性」と いう記事がありました。なぜ日本が第二次世界大戦にケジメとつけられないかという仮説を 述べており、一部「なるほどな」と思ったので書き留めておきます。
By Toshiyuki Yoshida
中島聡氏のメールマガジンに「戦争責任にケジメをつけて前に進む必要性」という興味深い記事がありました。日本が第二次世界大戦における戦争責任にケジメをつけられない理由についての分析で、納得できる部分が多くあったため、ここに記録しておきます。
中島氏の基本的な見解
中島氏の基本的な立場は明確です。 旧日本軍の残虐行為を肯定するものではないが、 過去の戦争について永続的に謝罪し続けることも適切ではないという、バランスの取 れた見解を示しています。基本的は同意できます。
日本の場合、戦争の責任を押し付けるべき人々に「ナチス」のような総称がな いため、「旧日本軍が残虐な行為をしたことを日本人として反省している」と 言う卑屈な表現になってしまいがちで、その反動として、「日本人の名誉を守 る」ための保守派による「旧日本軍は残虐な行為はしていない」という否定的 な発言に結びついてしまうのです。
中島氏の分析で特に興味深いのは、日独の戦争責任の向き合い方の違いです。
- ドイツの場合: 戦争責任を「ナチス」という明確な対象に帰結させることで、論理的で筋の通った反省が可能になっている
- 日本の場合: A級戦犯が存在するにも関わらず、国民がそこに責任を帰結させることができず、結果として「卑屈な反省」と「保守派の反発」という対立構造が生まれている
なぜ日本人はA級戦犯に戦争責任を帰結できないのか
中島氏は、日本人がA級戦犯に戦争責任を帰結させることができない理由として、戦後のGHQの政策を指摘しています。 具体的には、「GHQがA級戦犯を無罪放免して政治的に利用した結果、A級戦犯の一人であった岸信介(安倍晋三の祖父)が総理大臣になってしまった」ことを挙げています。
この指摘は確かに重要な要因の一つですが、日本人がA級戦犯に戦争責任を帰結させることができない理由は、より複層的であると考えられます。
A級戦犯への疑問
まずA級戦犯についての中島氏の観点を除いていても、 戦後の日本人が戦犯としての正当性に「納得」していないのが現実だと思われます。
この点は、故石原慎太郎氏の平成26年2月12日の衆議院予算委員会での発言を見ると明確に表れています。
- 東京裁判(極東国際軍事裁判)自体の正当性が疑問
- A級戦犯とは「平和に対する罪」つまり戦争を始めた罪ですが、「戦争犯罪」とい う概念はあった1が、開戦当時は戦争は国家間の紛争の解決手段の一つと認識され ていたはずで「戦争を始めた罪」などという犯罪はなかった
A級戦犯として処刑された東条英機が遺書で語っているよう 「戦の責任は死をもってしても贖い切れない」、つまり「敗戦の罪」です。 実際、このお方、軍人としては徹底的に無能でした。 一方で「今回の戦争は侵略を目的としたものではなく、国際的には犯罪ではない。」 というとも述べています。
これは理解しやすい論理です。
つまり、A級戦犯については戦後の政治的扱いの問題もさることながら、そもそもその犯罪定義や裁判自体に対する納得感が乏しく、むしろ「敗戦の責任」として受け入れている国民が多いのではないでしょうか。
B/C級戦犯の認知
A級戦犯は25人が有罪となり7人が処刑されました。 一方で戦争犯罪であるB級戦犯、人道に対する罪2のC級戦犯は5000人以上が有罪と なり、937人が処刑されています。
これらは主に米国が戦犯として裁いたものですが、 ソビエト連邦や中国でどれだけの方が処刑されたか統計がありません。 中国の撫順戦犯管理所やソビエト連邦のシベリア抑留など、多くの日本人が戦争犯罪 者として収容され思想改造や労働を強いられて肉体的・精神的な苦痛を与え続けられ ました。
東京裁判については広く知られていても、これらB/C級戦犯の実態について認識している日本人は少ないのではないでしょうか。 日本の戦争犯罪は納得感なく少数のA級戦犯が裁かれたことしか認知しておらず、 そのためなんとなく旧日本軍の戦争犯罪が「裁かれていない」感を持ってしまってい るのではないでしょうか。
しかし、実際にはこれだけ多くの日本人が戦争犯罪者として実際に裁かれ処刑を含む処罰受けています。 この事実を踏まえると、まださらなる謝罪や反省が必要なのでしょうか。
櫻井よしこ氏の記事について
なお、中島氏のこの記事は、櫻井よしこ氏が産経新聞に寄せた記事への批判として書かれたものです。
「南京大虐殺」はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ。にもかかわらず中国は事実を曲げ日本への憎しみをかき立てる。
中島氏はこのような発言を「日本国にとってマイナスなこと」と断じています。 しかし、櫻井氏の真意を正確に読み取れていない可能性があります。
櫻井氏の表現にも改善の余地はありますが、「南京大虐殺」
と引用符付きで
記述しているのは重要なポイントです。これは歴史的事実としての旧日本軍の行為の
有無を論じているのではなく、中国が政治的目的で主張する「南京大虐殺」という政
治的プロパガンダを問題視しているのだと解釈できます。
記事全体の文脈を踏まえれば櫻井氏の真の懸念が理解できますが、部分的な引用や表 面的な読み方では「歴史修正主義」として批判されてしまうのが現状です。
結論
中島氏の指摘する「日本が戦争責任にケジメをつけられない理由」は、単純なGHQの 政策だけではなく、より根本的な問題を含んでいると考えられます。A級戦犯という 概念自体への疑問、B/C級戦犯の実態への無関心、そして言論の不備が組み合わさっ て、日本の戦争責任問題を複雑で未解決な状態にしているのではないでしょうか。
この問題を解決するためには、感情的な対立ではなく、歴史的事実と政治的プロパガンダを区別した冷静な議論が必要ではないでしょうか。